
1.半年をかけ、開発に伴走
静岡県沼津市は海の幸で有名な土地。沼津港の水揚げ量は年間約6,600トンで、県内の港では焼津港に次いで2番目に多く、サバやアジ、イワシ、カツオ、マグロなどが主な漁獲物だ。アジの養殖も盛んで、養殖マアジの生産出荷量は日本一を誇る。
そんな港町・沼津に、2024年新たな名物「Sea級グルメ」が誕生した。
「沼津あじフライ たるたるサンド (あじたるサンド)」-ふっくらサクサクのあじフライをパンに挟み、上から静岡抹茶とワサビをピリリと効かせた緑のタルタルソースをたっぷり載せる。キャベツのシャキシャキ感とともに、香り高いパンと贅沢に半身を使った肉厚のあじフライ、オリジナルタルタルソースのバランスが絶妙。子どもからお年寄りまで食べられるよう、ワサビは控えめだ。

これは、みなとオアシス全国協議会が主催する全国の港(みなとオアシス)の活性化を目的とした「Sea級グルメ全国大会」に向け、沼津港振興会のSea級グルメ部会が開発したもの。シードが開発の伴走支援をしている。
23年に沼津港で全国大会が行われ、過去最多の約12.5万人を集める大きな大会となった。その交通計画をシードが手がけたことが縁で、新Sea級グルメ開発のパートナーにとお声がかかった。
部会メンバー10人が中心となり、ワークショップ形式で①沼津らしさ②新規性③作りやすさ④広めやすさを軸に約半年をかけ、検討を重ねた。
参加者の皆さんは地元に思い入れのある方ばかり。素材の洗い出しから始まり、「ああしたらいい」「こうしたらどうか」など、毎回熱のこもった議論が続いた。

7度もの打合せを重ね、最終候補として残ったのは次の3つ。「港のシュウマイ」「あじたるサンド」「あじの干物の素揚げ」。あじの干物の素揚げは市内の小学校給食でも出る定番だ。
ここからさらに試食や検討をすすめ、アジのおいしさがダイレクトに伝わる、ワンハンドで食べられる、調理がしやすいなどの理由から「あじたるサンド」が選ばれた。

2. 全国大会へ、いざ出陣!

できたてホヤホヤの「あじたるサンド」を引っ提げ、向かった先は『第15回みなとオアシスSea級グルメ全国大会』。ゲゲゲの鬼太郎で有名な、鳥取県境港市の「境夢みなとターミナル」を会場に11月9・10日の2日にわたり行われた。
会場には朝から大勢の人が詰めかけ、全国32のみなとオアシスから集まったSea級グルメに舌鼓を打っていた。会場は長蛇の列ができているところ、回転が速いためか待たずに買えるところなど、様々。主催者発表によると、2日間で延べ56,000人が来場したとのこと。
「あじたるサンド」は冷めてもおいしいが、やはり揚げたてが最もおいしい。そこで、会場ではあじフライを揚げる人、揚がったあじフライにウスターソースをかけてパンに挟む人、最後にタルタルソースを掛ける人と、調理の順にスタッフが並び、スピーディな提供を心掛けた。

実は、「あじたるサンド」チームのテントは会場の一番奥。そこで、看板は赤を基調に遠くからでも目立つようにした。これはほかのイベントに出店した際に、キッチンカーが白ベースで目立たなかったことから学んだことだ。また、並んで待っているお客様には、おもてなしとしてタルタルソースにも使われている静岡のお茶を提供したり、沼津の紹介をまとめたハンドビラを配ったりして飽きずに待てる工夫をした。
その甲斐もあってか、リピーターも獲得。用意した2,000個のうち、初日分の800個が早々に売り切れるという嬉しい“誤算”も。
さて、気になる結果だが、「あじたるサンド」は大健闘。初めての出品にもかかわらず総合3位に次ぐ「優秀賞」を獲得した。

3.関係者の熱意が生んだ「優秀賞」
本事業の担当者はシード入社7年目、営業企画部の伊豆川裕都。彼は今回の事業をこう振り返る。
「そもそもあじたるサンドは、“地域のシンボル商品”をゼロから開発し、販売まで伴走することで市の活性化につなげる という目標のもと、沼津港振興会、沼津市、シードの3者がタッグを組んで進めた事業。立場の違う人たちと同じ目標に向かって協力し、成果が出せたのは貴重な体験でした。
また、関係者の熱意が大切だという事もとてもよくわかりました。推進役のあした葉・望月社長は、地域に根差した視点で率先してメニューを開発し、大会当日は自身の店の手慣れたスタッフを連れて来てくれました。 市役所の皆さんも、ポジティブな意見で会議を盛り上げたり、必要な情報を集めたりしてくれました。窓口の方の物腰が柔らかく、全体のバランサーになっていたのも良かったと思います。

社会人ですから、仕事としてきちんとやりはしますが、今回のイベントは一位を取りたい、沼津をPRしたいというみんなの熱量が、いろんな意見や工夫を引き出したと思います。」
今回の取り組みは単なるイベントに留まらず、長期的な地域活性化につながる可能性もある。
「シンボル商品ができると、単に“新しい名物”が生まれるだけでなく、その商品を軸にした地域の物語が生まれます。
たとえば、今回のあじたるサンドが地元で広まり、駅や観光施設で販売されるようになれば、観光客の来訪理由の一つになります。また、地元飲食店がそれぞれのアレンジを加えたバリエーションを提供すれば、”あじたるサンド巡り” のような新たな観光コンテンツも生まれます。」
さらに、「この取り組みは沼津だけの話ではなく、シンボル商品がない市町村でも応用可能です。 たとえば、愛媛県八幡浜市の『じゃこカツ』や、北海道紋別市の『ホタテステーキ』のように、地元の強みを生かしたグルメが全国大会をきっかけに広まった例もあります。今回の経験を生かし、他の市町村でも“ゼロからのシンボル商品作り”の支援をしていければと考えています。」

今後は、広く事業者の募集やレシピの公開、そして首都圏でのPRや大手コンビニチェーンへの売り込みも検討している。来年の青森大会の出場も決まった。
あじたるサンドの挑戦は、まだまだ続く。
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